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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)11927号 判決 2000年2月10日

原告

林義男こと亡林相玉承継人

(訴状記載の原告

林義男こと亡林相玉)

右訴訟代理人弁護士

藤木邦顕

小林徹也

被告

医療法人武朋会

右代表者理事長

白壁武博

右訴訟代理人弁護士

森恕

吉村信幸

右訴訟復代理人弁護士

浅田克佳

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

一  一件記録によれば、本件訴訟の経過は、次のとおりである。

1  訴状記載の原告の林義男こと亡林相玉(以下「林」という。)は、原告代理人らに訴訟委任して、「被告は、林に対し、四一五九万四五二七円及びうち三七八一万四五二七円に対する平成八年七月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求める本件訴訟を提起し、次のとおり請求の原因を述べた。

(一)  被告は、白壁美容外科を経営する医療法人である。

林(昭和一九年五月一〇日生)は、平成八年七月一五日、顔面の容貌を柔和にするため、被告の経営する白壁美容外科で初診を受けた。

(二)  林は、平成八年七月二四日、被告の副院長の小林清史医師による埋没式重瞼術及び下顎骨形成術、被告に勤務する出口医師による頬骨形成術の各手術を受けた。

(三)  林は、本件手術後、開口障害(口の中心部の開口量が約三〇ミリメートル)、唇のしびれ等の症状が現れ、その後も症状の改善がみられなかった。

(四)  被告の責任

被告の副院長の小林医師及び被告に勤務する出口医師は、林に対して下顎骨形成術又は頬骨形成術の各手術を実施するに際し、顔面の筋肉や動脈を損傷して開口機能や知覚・味覚に影響を与えないように慎重に手術する義務があるにも拘わらず、筋層の切開又は骨の削除の際、顔面動脈や咬筋等の顔面の筋肉に損傷を与え、右(三)の症状を生ぜしめた。

(五)  損害の発生

林は、小林医師らの過失により、次のとおり、合計四一五九万四五二七円の損害を被った。

(一) 休業損害六三一万三五〇〇円、(二) 入通院慰謝料二八〇万円、(三) 後遺症逸失利益二三〇〇万一〇二七円、(四) 後遺症慰謝料五七〇万円、(五) 弁護士費用三七八万円。

(六)  よって、林は、被告に対し、民法七一五条に基づく損害賠償として四一五九万四五二七円及びうち三七八一万四五二七円に対する右(二)の手術の日の翌日である平成八年七月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  林は、「林義男」の名で本件訴訟を追行していたが、訴訟係属中の平成一一年五月二八日、死亡した(弁護士法第二三条の二第二項に基づく照会に対する兵庫県姫路市長堀川和洋の回答)。

3  そこで、原告訴訟代理人らが林の訴訟承継人を確定するため、同人の相続人を調査したところ、以下の事実が判明した。

(一)  林は、韓国籍で、昭和一九年五月一〇日生であり、その本名は「林相玉」であるが、「林義男」の通称名を用いていた。林の外国人登録原票には、その居住地として兵庫県姫路市網干区福井<番地略>と、世帯主等として「林相玉」と、在留資格として「特別永住者」と、出生地として「山口県下関市」と記載されていたが、本人死亡により、平成一一年六月三日登録閉鎖となった(姫路市役所市民課交付係の回答)。

(二)  更に、林の外国人登録原票には国籍等として「韓国慶尚南道金海郡下東面」とのみ記載されているが、それに続く詳細な住所(番地等)の記載がなく、それが不明であるため、林の韓国戸籍を原告代理人らが取り寄せることができない。

(三)  原告訴訟代理人らは、在日本韓国民団西播支部に対する照会により、林の本籍が「韓国慶尚南道金海市大東面水安里<番地略>」ではないか及び林の実兄の氏名が「林尚文」ではないかと判断したものの、韓国の慶尚南道金海市大東面朴ウィグ白の回答によると、右住所において林及び林尚文について戸籍及び除籍事項に登載された事実はなかった。

4  原告の訴訟代理人らは、このように、林の相続人を調査するため、その韓国戸籍を確認しようとしたが、結局、それを確認することができず、同人の居住関係及び戸籍のいずれの面からも、その相続人を推知することができなかった。

5  原告訴訟代理人らは、本件口頭弁論期日において、林の相続人の存否、人数及び氏名のいずれもこれ以上調査する方法がないと述べている。

二  右一のような本件訴訟の経過によると、当初原告であった林が、平成一一年五月二八日死亡したことにより、同人の権利義務を承継する相続人等の承継人が原告の地位を当然に承継し、原告訴訟代理人らは、その者の訴訟代理人になったものというべきである(民訴法五八条一項一号、一二四条一項一号、同条二項)。そして、このような場合、右の承継人は、原告の変更に伴う新たな請求の趣旨、請求原因事実(実体法上の権利義務の承継の原因事実)を記載した書面を提出するなどして、新たな請求(訴訟物)を呈示する必要がある。例えば、原告の相続人がA、B及びCの三名で、それぞれ二分の一、四分の一、四分の一の割合で相続したのであれば、被告はAにどれだけの金員を、B及びCに各どれだけの金員を支払うことを求めるのかを請求の趣旨として明示し、請求原因として右の相続の事実を追加主張する必要がある。

かような判断の下に、右一の本件訴訟の経過をみると、原告の訴訟代理人らは、努力したにも拘わらず、結局、承継人が誰であるのか、何人存在するのかについて、最早これ以上の調査は不能であって明らかにできないというのであって、それは、当事者の死亡に伴って変更された新請求(訴訟物)の内容が特定されておらず、裁判所としても、如何なる請求(訴訟物)について今後審理を進めるのか不明な状態にほかならない。

このように、承継人の求める請求の趣旨が特定されておらず、それを補正することもできないのであるから、本件訴えについて、判決をもって却下するのが相当である。

三  よって、本件訴えは却下することとし、訴訟費用につき民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官八木良一 裁判官平野哲郎 裁判官山田真依子)

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